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解答




【 解説 】

錯誤という言葉は、皆さん聞いたことがあると思います。勘違いとか、錯覚に陥ったというような意味で、使っていると思います。イメージとしては、それでいいと思います。

CDを買おうと思ってCD屋さんに入って行き、「カセットテープを下さい」と言ってしまう場合です。こういう人はあまりいないかもしれませんが、小さいことは気にしないで下さい。

この錯誤が心裡留保(93条)と違うところは、「本人がそのことに気がついていない」という点です。

この場合、かかる意思表示は無効となります。

それはなぜでしょうか。

民法には私的自治という大原則がありますが、この私的自治は本人の意思に基づいているからこそ成立し、その者が責任を負うわけです。

ところが、錯誤が生じている場合には、本人の真実の意思とは言えない事項が、表示されています。このような状況は、私的自治の前提を欠いています。このまま表意者本人に、責任を負わせては、かわいそうです。

しかも、表意者自身はそのことを知らないのです。ここが心裡留保と、大きく違うところです。心裡留保の場合は、表意者自身が食い違いを知っていましたよね。他方、錯誤の場合には知らないわけです。

ですから、錯誤は無効となるのです。


このように錯誤だからと言って何でもかんでも無効としたのでは、今度は相手方がたまったものではありません。

そこで、「要素に錯誤がある場合」に無効となる旨を、法は定めています。これは簡単に言えば、軽微な点に錯誤があるからと言って無効にしていたのでは、表意者をあまりに保護しすぎですし、逆に相手方に酷だということです。


また、表意者に重過失がある場合も、表意者は無効主張できません。「重過失」とは重大な過失という意味で、「うっかり」の度合いが大きいということです。ちょっと注意すればよかったのに、その「ちょっと」の注意をしなかったということです。

本来、無効というのは、誰かが「無効」と主張しなくても無効です。効力が生じないのです。これが取り消しと違うところです。

取り消しの場合は、取消権者が「取消」と主張するまでは有効です。効力が生じています。

他方、無効の場合は、「無効」と主張しなくても、効力が生じないのです。本来、無効とはそういうものです。代表的な例が公序良俗違反です。公序良俗違反による無効の場合などは、まさにこの本来の無効です。

しかし、錯誤無効の場合は、違います。

そもそも錯誤無効は表意者を保護するための制度です。先ほどからお話していますように、本人の真実の意思とは言えない事項が表示されている場合に、当該表意者に責任を負わせてはかわいそうだということで、表意者を保護しているのです。

ですから、表意者が無効をのぞまないのであれば(つまり、錯誤がある状態でかまわないと思っているならば)、その状態を変える必要はないと考えられます。

例えば「いずれカセットテープも買わなければならないから、今ここでカセットテープも買っておこう」と考えるかもしれません。この場合、無効とする必要はないと言えます。つまり、表意者自身の判断に任せてかまわないということです。

その結果、錯誤無効については、表意者のみが錯誤無効を主張しえることとし、第三者は原則として無効主張が出来ないことになっています。つまり錯誤による無効は、「無効」とは言っても、「取消」に近い状態になっているのです。

では、表意者以外の人は、一切錯誤無効を主張できないのでしょうか。

そんなことはありません。できる場合もあります。次のような判例があります。

「表意者が意思表示の瑕疵を認めている場合、表意者自らは当該意思表示の無効を主張する意思がなくても、第三者たる債権者は表意者に対する債権を保全するため表意者の意思表示の錯誤による無効を主張できる」(最判昭45.3.26)

つまり表意者が錯誤を認めているものの無効主張する意思がない場合でも、第三者に無効主張を認めるだけの利益がある場合には、第三者も無効を主張できるわけです。

また錯誤には、動機の錯誤という論点があります。この点について有名な判例があります。判例は、動機に錯誤があっても、そのままでは錯誤無効を主張できないとしています。

しかし一定の場合には、動機に錯誤がある場合でも錯誤主張を見ています。それが次の判例です。

判例は、表意者が動機を意思表示の内容に加える意思を明示又は黙示したときは意思表示の内容を組成し、その錯誤は要素の錯誤となりうる、としています(大審大3.12.15)。

換言すれば、動機に錯誤があったとしても、動機を明示も黙示もしなかったときは、無効主張はできないということです。


以上を前提にそれぞれの肢をみていきます。

肢1は、まさに重過失がある場合ですから、錯誤無効を主張できません。よって正しい肢です。


肢2は、表意者が錯誤無効を主張する意思がない場合には、第三者は無効を主張できません。先ほどお話したとおりです。この場合で、最判昭45.3.26の判例を思い浮かべた人もいるかと思いますが、問題文には第三者に債権を保全させるための利益があるかのような記述はないので、原則通り第三者は無効主張できないと回答するのが正しいです。よって正しい肢です。


肢3と肢4は、動機の錯誤に関する問題です。動機を明示又は黙示していれば、要素の錯誤となりうる場合があります。明示と黙示で判例は区別していません。よって肢3は正しい肢、肢4は間違った肢となります。

肢3については明示的に表示した場合についてしか述べてなく、動機を黙示的に表示した場合も要素の錯誤になりうることから、明示的に表示した場合だけが要素の錯誤になりうると考え、肢3を誤った肢であると判断した人もいるかもしれません。

しかし、肢3は明示的に表示した場合はどうなるかということを問うているだけであり、黙示的に表示した場合については何ら記載されていません。黙示的に表示した場合を除外しているわけではありません。この点に気をつけないと、うっかり肢3を誤っていると判断してしまいかねません。ご注意下さい。


以上より正解は4です。



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